「やさしいビタミンのお話」(3)

第3話 ビタミン欠乏症と過剰症



.「ビタミンが不足すると、どんな病気になるのですか?」

.「ビタミンをとり過ぎると、どんな病気になるのですか?」


 この第3話では、この2つの質問について説明します。

 ビタミンが不足すると、身体の調子がおかしくなります。何となく、だるいとか、食欲が落ちるとか、肌が荒れるとか、いった状態がそうです。ビタミンの種類によって、それぞれ違いますが、さらに不足状態が進むと、欠乏症がおこります。
ビタミン欠乏症として最もよく知られているのは、脚気(かっけ)です。白米を常用している地方に多発し、日本でも明治時代には、1年に1万人も死亡者が出て、恐れられました。ビタミンB1の欠乏によっておこる病気です。全身の倦怠感(だるい)、手足の知覚異常やむくみ、心臓のどきどき、最低血圧の低下などの自覚症状がみられ、腱反射の消失、心臓の肥大をきたします。乳児の脚気は、食欲不振にはじまり、嘔吐(おうと)、緑便、チアノーゼ(皮膚が青紫色になる)がおこれば、速やかに治療しなければなりません。
 ビタミンB1の典型的な欠乏症としては、脚気のほかに、ウエルニッケ・コルサコフ症候群という病気があります。この病気は、歩行がふらふらし、記憶力が低下するなど中枢神経の疾患です。アルコールを飲み過ぎている人がかかりやすく、初期にビタミンB1を投与すると治ります。
 ビタミン欠乏症として、壊血病も有名です。昔は、長い航海中に、たくさんの方がかかり、亡くなられました。ビタミンCの欠乏でおこる病気です。野菜や果物を食べないと、齦(はぐき)から出血するのは、壊血病の初期徴候です。
 くる病は、ビタミンDの典型的な欠乏症です。日照の少ない地方で多発しました。日光浴をすると、くる病がおこらないのは、皮膚でプロビタミンDからビタミンDが作られるからです。もちろんビタミンDを口からとっても治ります。骨がもろくなる骨粗しょう症もビタミンDやビタミンKの欠乏が大きな原因になっています。
 明るいところから暗いところへ入った時、視力が回復するのに非常に時間がかかるのは、網膜色素形成不全症(昔は、夜盲症と呼ばれていた病気)です。ビタミンAが欠乏していると、おこるのです。また、ビタミンAの欠乏で、皮膚や粘膜が荒れます。味覚も変化します。細胞の増殖が悪くなることなども分ってきました。ネズミでは、成長が停止し、生殖能力が衰えます。
 昔から、悪性貧血として恐れられた病気は、肝臓を食べると治ることが分かり、肝臓中に有効成分が含まれているのではないかと考えられ、その成分が赤色の結晶として分離され、ビタミンB12と命名されました。ビタミンB12の欠乏は、悪性貧血だけでなく、メチルマロン酸尿症などの病気をおこします。
 以上のほか、他のビタミンについても、
表1および表2に示したように、それぞれ特有の欠乏症が知られていますが、今日の日本では、普通の食事をしていれば、欠乏症がおこることは稀です。欠乏症が稀であるから、気にしなくて良いかというと、そうではありません。好きなインスタント食品ばかり食べたり、極端なダイエットをしている若者に欠乏症が急増しています。インスタント食品を食べてはいけないのではありません。偏食することがいけないのです。高齢者や中年の方でも不足状態の方が増えています。欠乏症にまではならなくても、その予備軍のような潜在的欠乏症・不足症は、相当高い割合で認められています。ビタミン不足にならないように、食生活には十分に留意する必要があります。
 最近、見つかっているビタミン欠乏症には、ビタミンの摂取不足によるもののほか、他の原因によるものもあります。例えば、先天的な遺伝子異常などです。また、ビタミンが体内で活性型に変化できないとか、必要な臓器まで運搬されないといった場合もあり、このような時にはビタミンを投与しても治りません。
 一方、ビタミン過剰症の症状も、ビタミンの種類によって、まちまちです。
 ビタミンAでは、脳脊髄圧の急上昇がおこり、慢性的には、全身のいろいろの部位で、実にいろいろの病変がおこります。ただし、プロビタミンAの代表であるβ-カロテンは過剰症をおこさないと言われています。
 ビタミンDの過剰によって、食欲不振、体重減少、嘔吐、頻尿などをおこし、腎臓や動脈にカルシウムが異常沈着し、死にいたることもあります。
 ビタミンEは、脂溶性ビタミンであり体内に蓄積されやすいことから、許容上限摂取量が決められていますが、所要量の60倍です。従って、よほど多量にとらない限り、過剰症の心配はありません。
 ビタミンKは、脂溶性ですが、体内での蓄積はあまり多くありません。許容上限摂取量が決められていますが、所要量の500倍です。従って、無謀に大量を与えるようなことをしなければ、過剰症にはなりません。
 水溶性ビタミンは、過剰症がないと言われてきましたが、ビタミンB6、葉酸、ナイアシンの3つには、許容上限摂取量が定められました。それぞれ、100mg, 1mg, 30mgです。これを所要量と比べてみますと、それぞれ、約60倍、5倍、2倍です。従って、ナイアシンや葉酸は、とり過ぎないようにしなければなりません。
 ナイアシンの作用を持つ化合物には、ニコチン酸とニコチンアミドがあり、いずれも大量にとると過剰症になりますが、その中毒症状はニコチンアミドのほうがニコチン酸よりも少ない量であらわれます。
 以上書いてきたビタミン過剰症は、主に薬物やサプリメントとして極端に大量をとった時にあらわれ、通常の食事でとり入れている程度ではおこりません。しかし、例えば、毎食マグロだけを食べるようなことをすると、ビタミンA過剰症になるばかりでなく、他のビタミンの欠乏症などがあらわれるおそれもあります。


 これで、第3話を終わります。





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