「やさしいビタミンのお話」(6)

第6話 ビタミンの生理作用


 ビタミンの生理作用とは、健康な状態の時に、そのビタミンが体内で果たしている作用(役割)のことです。もちろん、ビタミンごとに異なりますから、各ビタミンについてごく簡単に述べます。一通り目を通して頂くと、13種類のビタミンは、それぞれ体内で極めて重要な役割を果たしていることが分って頂けると思います。
小さい活字のところは、飛ばしても結構です。

1.ビタミンB1
 食品中に含まれビタミンB1効力を持つチアミン(thiamin)は、体内に入るとチアミン−二リン酸エステル(TDP, thiamin diphosphateの略)という補酵素になり、糖類の利用(代謝)に役立っています。
 もう少し詳しく説明しましょう。糖類(デンプンや砂糖など)を食べますと、いろいろの酵素の作用により変化し、体内構成成分やエネルギー源になっていくのですが、その酵素のうち、ピルビン酸脱水素酵素、α-ケトグルタル酸脱水素酵素およびトランスケトラーゼという3種類の酵素はTDPという補酵素がないと働かなくなるため、糖類の利用が途中でとまり、有害な化合物がたまり、病気をおこすのです。補酵素とは、酵素タンパク質に結合して酵素作用を発揮させる化合物です。
TDPの一部は、さらにリン酸化を受けて、チアミン-三リン酸エステル(TTP、thiamin triphosphateの略)になり、神経機能に役立っていると言われています。

2.ビタミンB2
 リボフラビン(riboflavin)(Fと略記します)は、体内に入るとFMNおよびFADになり、いろいろの酸化還元酵素の補酵素として役立つのです。
 FMNは、flavin mononucleotideの頭文字で、化学名はリボフラビン5-リン酸エステルです。 FADは、flavin adenine dinucleotideの頭文字です。細胞内の呼吸(電子伝達系)に関与し、また、後で述べるNAD依存性グルタチオン還元酵素と連携して過酸化脂質の蓄積を防ぐなどの役割も果たしています。依存性というのは、それが存在することによって酵素として役立つ時に用いられる言葉です。

3. ビタミンB6
 主として、アミノ酸を変化させる多くの酵素の補酵素として役立っています。
 ビタミンB6化合物には、ピリドキシン(PN), ピリドキサール(PL)、ピリドキサミン(PM)およびそれらのリン酸エステル(PNP、PLP、PMP)の6種類があり、生体内では相互に変換されます。このうちPLPが補酵素です。アミノ酸のラセミ化(アミノ酸にはD型とL型とがありますが、それらをDL型にする反応です)、脱炭酸、アミノ基転移、脱離、加リン酸分解などを触媒する酵素のうち、100種類以上がPLP依存性です。

4. ビタミンB12
 体内で、アデノシルコバラミン(Ade-Cob)になり、いろいろの酵素の補酵素として役立ち、また、メチルコバラミン(Me-Cob)になり、メチル基転移反応に役立っています。
 Ade-Cob の関与する酵素は、アミノ基の分子内転位や脱離、水酸基の脱離、アルキル基やアシル基の転位などの反応を触媒しています。例えば、Ade-Cob依存性のメチルマロニルCoAムターゼという酵素が働かないとメチルマロン酸尿症がおこります。また、リボヌクレオチド還元酵素の補酵素としてDNA構成成分の供給に役立っています。
 Me-Cobの関与する酵素には、微生物におけるメタンや酢酸の生成に重要な働きをしていますが、動物ではホモシステインをメチオニンに変換させるのに役立っています。

5. 葉酸
 葉酸(PteGlu)は、生体内では還元型(H4PteGlu)になり、ホルミル(CHO)やメチル(CH3)など炭素数が1つの基の受け渡しや変換などの反応に役立っています。

6. ニコチン酸、ニコチンアミド
 体内で、NADやNADPになり、極めて多くの酸化還元酵素の補酵素として重要な役割を果たしています。
 NADは、ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド(nicotinamide adenin dinucleotide)の頭文字で、NADPは、それにリン酸が結合した化合物です。酸化還元酵素だけでなく、NAD依存性のDNAリガーゼも知られています。DNAは、遺伝子として知られるデオキシリボ核酸(deoxyribonucleic acid)のことで、DNAが壊れた時に修復する重要な酵素がDNAリガーゼです。さらにNADはADPリボシル化という重要な反応にも関与しています。ADPは、アデノシン−二リン酸エステル(adenosine diphosphate)をあらわします。

7.パントテン酸
 体内で、CoAや4-ホスホパンテテインになり、糖や脂肪酸の代謝にかかわる酵素の補酵素として役立っています。
 CoAは、補酵素A (coenzyme A)の 略記号で、アセチル化されたアセチル補酵素Aは、解糖反応の最終段階で生じるピルビン酸のクエン酸回路への導入や脂肪酸のβ-酸化などに関与する重要な化合物です。

8. ビオチン
 生体内で二酸化炭素(CO2)の固定、脱離、転移を司どる酵素に結合して補酵素の役割を果たしています。
例えば、ビオチン依存性のプロピオニルCoAデカルボキシラーゼが働かないとプロピオン酸血症という病気になります。なお、生卵白中にあるアビジンという糖タンパク質はビオチンと結合することが知られています。

9. ビタミンC
 生体内における水溶性の抗酸化作用物質として重要な役割を果たしているほか、コラーゲンの生成、コレステロールなどの脂質代謝、生体異物の除去、無機鉄の吸収などにも役立っています。

10. ビタミンA
 レチナ−ル(A1アルデヒド)がオプシンというタンパク質と結合してロドプシンという視覚物質になり、また、レチノイン酸(A1酸)の形で、形態形成などに役立ち、発ガン抑制効果もあると言われています。
プロビタミンAのβ-カロテンは、体内に入って、ビタミンAとして利用されるだけでなく、抗酸化物質として重要な作用をしています。

11. ビタミンD
 体内に入ると、数段階の反応により活性型になり、カルシウムとリンの代謝を司どり、骨や歯の形成に役立っています。

12. ビタミンE
 抗不妊因子として発見されましたが、脂溶性の抗酸化物質としての役割が重視されています。
動脈硬化や肺がんの原因になると言われる活性酸素の除去に役立っているのです。老化防止ビタミンと言われるのは、細胞などの酸化を防ぐためです。

13. ビタミンK
 血液凝固作用のほか、タンパク質のグルタミン酸基にカルボキシル基を導入する酵素の補酵素として、さらに骨形成にビタミンDと共同して、役立っています。

以上は、各ビタミンの主な生理作用について極く要点のみを述べたものですが、これ以外にも、もっともっと多くの役割を果たしています。ここでは、どのビタミンも生命の維持に欠かすことのできないものであることを認識して頂ければ幸いです。


 これで、第6話を終わります。





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